特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」は中止に
新型コロナウイルス感染防止のために、特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」の中止が決定しました。
金堂壁画や百済観音などの仏さまにお会いできることを楽しみにしていた私にとって、とても残念なニュースです。
このような状況においては、健康と安全の確保が最優先ですので、やむを得ない判断だったと思います。
そこでこの記事では、幻となってしまった特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」の雰囲気などの情報が得られる雑誌と書籍、動画をご紹介していきます。
気軽に楽しめるオススメ雑誌と動画
『時空旅人 2020年3月号 Vol.53』
「時空旅人」は、隔月刊で発行されている歴史や文化などを扱う雑誌です。
2020年3月号では、 東京国立博物館で開催予定だった特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」(新型コロナウイルス感性防止対策により中止)について、巻頭から約 80 ページを割いて、特別展の見どころから法隆寺に関する周辺の知識について特集しております。
まず目にとまったのは、1949(昭和24)年の法隆寺金堂火災で焼損した壁画に合掌している佐伯定胤貫主の痛々しい写真です。
巻頭では、東京国立博物館保存修復室長の瀬田愛氏(2020年3月現在)の寄稿が掲載されております。
瀬田氏は、法隆寺金堂壁画を守り伝えた人々、壁画の保存と活用に関する活動などを紹介し、文化財保護と継承の意義について述べております。
この雑誌の特集では、
- シルクロードを経て日本に仏教が伝来するまでの経緯
- 仏教を受容するまでの権力闘争
- 聖徳太子の人物像
- 法隆寺と(聖徳太子の血を引く)上宮王家の数奇な運命との関係
- 法隆寺金堂壁画を始めとする文化財の保護と次世代への継承
などの角度から、法隆寺金堂壁画と古代アジア仏教美術との関わりや制作時期、百済観音の来歴の謎をはじめとする法隆寺の謎に迫っています。
関連情報がコンパクトにまとまっており、必要な情報を一冊で得られるのが魅力です。
本記事執筆時現在、Kindle Unlimited会員の方は『時空旅人 2020年3月号 Vol.53』を、AmazonのKindle(電子書籍)で無料で読めます。
よろしければ、こちらもご参照ください。
オススメ動画のご紹介『シルクロード・壁画の道をゆく』
『シルクロード・壁画の道をゆく』は NHK BSプレミアムで放映されたドキュメンタリー番組の動画です。
この番組は、法隆寺金堂壁画の源流を求めて、女優の有森也実さんがシルクロード各地を巡る旅です。
そして、シルクロードの文化財保護における調査・研究、保護などの活動で知られる小島康誉氏も登場します。
小島氏は、このような長年の貢献によって、新疆ウイグル自治区を中心に大きな尊敬を集め、高い評価を得ている方です。
このドキュメンタリでは、法隆寺金堂壁画の構図、模様、鉄線描のルーツを敦煌、キジル、ホータンの美しい壁画から探っています。
また、東京芸術大学による「クローン文化財」(定量的データに基づくデジタル技術と感覚を重視した手技を融合して制作された超高精度な文化財)の活動も見どころです。
この動画コンテンツは、法隆寺金堂壁画とシルクロードの仏教美術の関わりについて、わかりやすくまとまっており、さらに西域壁画の美しい映像も感動的です。
なお、『シルクロード・壁画の道をゆく』 の感想を別の記事で書いております。
よろしければご覧ください。
より深く学びたい方へのオススメ本
『法隆寺の謎を解く』武澤秀一
こちらは、法隆寺の伽藍配置変更を突破口に、建築家の視点から法隆寺の謎解きに迫った本です。
著者の武澤秀一氏は、古代建築に関する有識者で、美術史や建築史にも精通している研究者でもあります。
建築史や美術史の先行研究なども駆使して、法隆寺の再建の背景から日本文化の源流に至るまで法隆寺の全体像に迫った興味深い一冊です。
さきほどご紹介した雑誌『時空旅人』では、本書の著者である武澤氏が寄稿したコラムを読むことができます。
なお、『法隆寺の謎を解く』の書評を別の記事で書いております。よろしければご覧ください。
『古代壁画の世界―高松塚・キトラ・法隆寺金堂』百橋明穂
こちらは、日本の古代壁画を敦煌莫高窟を始めとする東アジアの壁画との関係から位置づけた本です。
『古代壁画の世界―高松塚・キトラ・法隆寺金堂』
【追記】本記事執筆後、入手困難な図書になってしまったようです。
筆者の百橋明穂氏は、美術史が専門です。
2004年には、神戸大学教授として、法隆寺の若草伽藍から出土した焼失壁画の破片の調査にも関わっています。
寺院壁画の事例として、法隆寺金堂壁画が約20ページにわたって記述されています。
興味深かったのは、日本の古代絵画の導入に関する次の内容です。
- 絵画に描かれる対象
- 顔料の導入とその発展
- 制作技法
- 絵画制作を担った人々
法隆寺金堂壁画が、古代の絵画のルーツや発展、大陸との文化交流にどのような位置づけにあったかを知る手がかりになります。
とことん探求したい方への専門書
『法隆寺金堂壁画――ガラス乾板から甦った白鳳の美』
こちらは、法隆寺金堂壁画の決定版ともいえる本です。
大型本の長所を活かしたカラー図版と一流の執筆陣による解説で構成されています。
残念ながら、この本には決定版ゆえの欠点がありますので、そこからお伝えします。
それは、大きいので書棚の場所を取ること、重いこと、高価(33,000円)なことです。
それでも、この本をご紹介するのは、次の理由があるからです。
カラー図版は、焼損前に京都・便利堂が制作した写真原版を元に再現された壁画と桜井香雲や鈴木空如らの模写などが収められております。
解説の執筆陣は、この分野の研究の第一人者である有賀祥隆氏や東野治之氏らによるものです。
文化史、建築史、彫刻し、美術史の観点から寄稿されており、読み応え十分です。
参考文献もきちんと記載されていますので、先行研究を知る手がかりにもなります。
法隆寺金堂壁画に強い関心を持つ方には、目を通す価値がある一冊です。
【追記】
本記事執筆後に、主催者から『特別展 法隆寺金堂壁画と百済観音』展図録を通信販売をするというアナウンスがありました。
展覧会図録は、朝日新聞の通販サイト「朝日新聞SHOP」などで、購入できるようです。
>> 朝日新聞SHOP
『特別展 法隆寺金堂壁画と百済観音』展図録の方が、安価で新しい知見が反映されておりますので、こちらでも良いかもしれません。
まとめ
ご紹介した雑誌、図書、動画を通じて、法隆寺金堂壁画や百済観音の魅力を感じるとともに、シルクロードを経て仏教美術が日本に伝わってきたことを実感できます。
特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」の準備に関わっていた関係者の皆様は、複雑な気持ちでいっぱいだと思います。
来年2021年は聖徳太子が亡くなって1400年の節目の年となります。
それにあわせて、幻となってしまった特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」のコンテンツが、聖徳太子ゆかりの地である奈良・斑鳩の法隆寺などで、何らかの形で再現できることを願っております。
この記事が、心穏やかに過ごすために少しでもお役に立てれば幸いです。
なお本記事でご紹介している情報は、執筆時点のものです。
特典や配信状況を含む最新の情報は、各サービス提供業者様のウェブサイトにてご確認ください。