この記事では、アーティゾン美術館で2021年1月24日まで開催中の「琳派と印象派」展の感想や楽しみ方についてご紹介していきます。
「琳派と印象派」展は、「都市文化」がテーマです。
「琳派と印象派」展では、俵屋宗達や尾形光琳、酒井抱一らの代表的な琳派作品や、アーティゾン美術館の印象派コレクションを中心に、名品約100点(前後期)を鑑賞できます。
「琳派と印象派」展の特徴は、印象派コレクションと、琳派作品を比較することによって、東西の価値観の共通点や違い、京都・江戸、パリを中心とする成熟した文化について、楽しみながら学ぶことができるところにあります。
ここからは、一般の愛好家として「琳派と印象派」展をどのように楽しんだかをお伝えしていきます。
はじめに
まずお伝えしたいことは、「琳派と印象派」展は、「ジャポニズム」の観点からは構成されていません。
このため、
- 琳派の作品が、印象派の作品に与えた影響はどんなところか?
- 印象派の作品と琳派の作品の表現上の共通点は?
という視点を期待すると、がっかりするかもしれません。
「琳派と印象派」展は、琳派の作品を鑑賞し、その後に琳派と印象派の作品を比較することによって得られる新たな鑑賞体験がポイントです。
鑑賞を通じて、東西の垢抜けた都市文化が生み出した背景を想像し、東西の価値観の共通点や違いに思いを馳せることができます。
なお、「琳派と印象派」展では、有名な俵屋宗達の「風神雷神図屛風」も鑑賞できます。
日本美術を代表する作品を鑑賞できるめったにない機会でもあります。
また、琳派と印象派を比較する展示は、新鮮でチャレンジングなテーマでもあります。
このような新しいテーマを、「都市文化」という補助線を引くことによって、新しい空間が広がっていく様子を楽しめるのが、「琳派と印象派」展ならではの特徴です。
必見の作品:俵屋宗達の傑作と、アーティゾン美術館初お披露目の尾形光琳
「琳派と印象派」展は、各地の琳派を代表する作品も展示していますので、見どころたっぷりです。
しかし、前期と後期で展示替えがあります。
本記事の掲載時点では、すでに後期展示となっております。
まず、後期展示の見どころ3点をご紹介していきます。
- 俵屋宗達『風神雷神図屛風』
- 俵屋宗達『蔦の細道図屛風』
- 尾形光琳『孔雀立葵図屏風』
俵屋宗達『風神雷神図屛風』:日本美術の象徴!
1つめは、俵屋宗達の代表作として名高い『風神雷神図屛風』です。
京都の建仁寺でレプリカを鑑賞できますが、「琳派と印象派」展では本物を鑑賞できます。
『風神雷神図屛風』の特徴の1つに、空間がもたらす躍動感があります。
左上と右上の端にそれぞれ雷神、風神を配置することで、その間に空間が生まれます。
それが、躍動感を生み出す要素だと言われております。
「琳派と印象派」展では、屏風が折り曲げられた状態で鑑賞できるので、より一層動きを感じることができます。
風神と雷神の表情も印象的です。
仏像の風神と雷神の表情は、怖そうに感じます。
『風神雷神図屛風』の風神と雷神は、ユーモラスで親しみやすさを感じます。
そして左右の屏風の形が、正方形にも見えてきます。
まるでInstagram(インスタグラム)を見ているような感覚のようです。
しかし、一番感じたのは一体感でした。
『風神雷神図屛風』の前にいると、まるで屏風から飛び出してきた風神と雷神の中にいるかのような感覚を味わうことができました。
俵屋宗達『蔦の細道図屛風』:デザインの斬新さが魅力的
2つめは、俵屋宗達の傑作として名高い『蔦の細道図屛風』です。
『蔦の細道図屛風』は、斬新なデザイン性が特徴です。
金地の峠道、緑青の盛り上がった地面(あるいは山)の平面的でシンプルな表現は、強い印象を与えます。
『蔦の細道図屛風』は、『伊勢物語』の一場面をモチーフにした作品なのに、登場人物が描かれていません。
蔦(つた)の葉が、主人公である在原業平の不安感を暗示しているそうです。
主人公をも削って、残されたモチーフで多くを語る『蔦の細道図屛風』は、まるで現在のプロダクトデザインのような表現に感じました。
理屈抜きで「カッコいい」と感じた作品の1つです。
尾形光琳『孔雀立葵図屏風』:意外性と「らしさ」の共存
3つめは、アーティゾン美術館の新たなコレクションに加わった尾形光琳の『孔雀立葵図屏風』です。
『孔雀立葵図屏風』は、右隻に孔雀が、左隻に立葵が描かれています。
まず、孔雀と立葵の意外な組み合わせに驚きます。
意外性に驚きつつ、よく見ると孔雀の背景に梅が描かれています。
左隻の立葵は、パターン化した赤と白の花と、緑色の葉の配置に「光琳らしさ」を感じることができます。
「琳派と印象派」展には出品されていませんが、『燕子花図屏風』を思い起こさせる屏風です。
「琳派と印象派」展ならではの楽しみ。
「琳派と印象派」展は、次のような構成になっております。
- 京(前期)と江戸(後期)の様子
- 琳派の作品
- 琳派と印象派の比較
- 印象派の作品
- エピローグ
ここでは、「琳派と印象派」展ならではの鑑賞体験だと感じる
- 琳派と印象派の作品比較
- エピローグ
をご紹介していきます。
琳派と印象派の作品比較
このセクションでは、琳派と印象派のアーティストの関心の違いを楽しめます。
ここでは、その一部である「水の表現」をご紹介します。
琳派と印象派のアーティストの「水の表現」を、次のように分類しています。
- 琳派:流れによる形の変化
- 印象派:光の変化による色彩の変化
後期展示の琳派の作例として、酒井道一『松島図屏風』(後期のみ)が印象的です。
『松島図屏風』で描かれている荒磯からは、解説パネルの通り「ザップーン」という音が聞こえてくるような迫力でした。
印象派の代表選手は、クロード・モネ《睡蓮》です。
見慣れている作品のような気がするのですが、「ザップーン」の後に鑑賞すると、光に包まれた静けさをより一層感じます。
ちなみに前期展示では、さらにインパクトのある作品が出品されていました。
それが、尾形光琳『富士三壺図屏風』(前期のみ)でした。
富士山と三壺(中国絵画のもチームに登場する3つの霊山)が壮大なスケールで描かれています。
『富士三壺図屏風』は、門外不出である俵屋宗達の『松島図屏風』に影響を受けて描かれた作品と言われています。
『富士三壺図屏風』は、日本初公開のためか、ネットでも情報があまりありません。
「琳派と印象派」展に合わせて出版された『教えてコバチュウ先生! 琳派超入門』では、『富士三壺図屏風』が日本初掲載されています。
関心がある方は、こちらをご覧ください。
その他にも、
- 空間の活かし方の違い
- 扇形から生まれる着想の違い
- 関心のあるモチーフの違い
などの比較も興味深いです。
作品を通じて、琳派と印象派それぞれのアーティストの興味・関心を知ることができます。
エピローグ
最後のセクションでは、「琳派と印象派」展を象徴する作品が2点展示されています。
最後を締めくくる作品は、
- 鈴木其一『富士筑波山図屛風』
- ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山と シャトー・ノワール》
です。
鈴木其一の『富士筑波山図屛風』は、江戸の人々にとっての霊峰である富士山と筑波山が写実的な要素で描かれています。
ポール・セザンヌの《サント=ヴィクトワール山と シャトー・ノワール》は、単純化された造形の要素を持っています。
このため、鈴木其一とセザンヌの作品からは共通点を感じます。
その共通性は、東西の文化が溶け合っているような空間を創り出しています。
「東西都市文化が生んだ美術」という副題がついた「琳派と印象派」展を象徴しているようです。
さいごに
「琳派と印象派」展では、俵屋宗達の『風神雷神図屛風』を始め、琳派の名品やアーティゾン美術館の誇る印象派コレクションを堪能することができます。
俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一などの琳派を代表する名品も数多く出品されているので、琳派の作品そのものを楽しむこともできます。
「琳派と印象派」展は、琳派と印象派の作品を「都市文化」というキーワードを通して、表現した新しい試みです。
都市文化というキーワード
その一方で、新しいテーマであるがゆえに、琳派と印象派という2軸で考えると、納得感が得られない可能性が高いです。
私自身も、悩んでいます。
琳派と印象派は、京都・江戸、パリ、それぞれの都市文化を構成する要素の一部です。
それが、悩みを深める理由の1つかもしれません。
「琳派と印象派」展の監修者であるコバチュウ先生こと小林忠氏は『教えてコバチュウ先生! 琳派超入門』のなかで、このように述べております。
琳派と印象派は表現上の接点は少ないんだけど、精神はとても似ていると思うんです。
出典:小林 忠『『教えてコバチュウ先生! 琳派超入門』(小学館、2020年) 110ページ
その後に、都市文化の担い手について語っています。
また、都市文化の要素を「雑食性」と表現しています。
「雑食性」というキーワードも、ヒントになりそうです。
意外性のある体験
「琳派と印象派」展は、琳派と印象派の名品を同時に鑑賞することで、意外性のある体験ができます。
特に、最後の
- 鈴木其一『富士筑波山図屛風』
- ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山と シャトー・ノワール》
が創り出した展示空間は、「琳派と印象派」展ならではのものです。
ぜひ会場でその東西が溶け合った空間を楽しんでいただけたらなと思います。
この記事が、皆様の参考になれば幸いです。