【感想】企画展示「中世武士団ー地域に生きた武家の領主一」歴博

美術館・博物館

この記事では、国立歴史民俗博物館で開催中の企画展示「中世武士団ー地域に生きた武家の領主一」の感想と、楽しみ方の一例、予習・復習に役立つコンテンツについてご紹介していきます。

はじめに

武士は、鎌倉時代から江戸時代までの約700年間にわたって実質的な統治者だったので、権力者のイメージが強いかもしれません。

あるいは「一所懸命」という言葉から、主君に命がけで仕える様子もイメージできるかもしれません。

このような先入観を開放するきっかけとなるのが、歴博で開催中の企画展示「中世武士団」です。

「中世武士団」展では、 文献史料はもとより、考古資料、絵画資料などの「モノ」や現地でのフィールドワークの成果も駆使して、中世の武士と社会との関わりを明らかにしていく展覧会です。

「中世武士団」展は、次の6部で構成されています。

  • 第1章 第1章 戦う武士団 ― プロローグ
  • 第2章 列島を翔る武士団 ― 移動と都市生活
  • 第3章 武士団の支配拠点 ― 地域のなかの本拠
  • 第4章 武士団の港湾支配 ― 地域の内と外をつなぐもの
  • 第5章 霊場を興隆する武士団―治者意識の目覚め
  • 第6章 変容する武士団―エピローグ

中世武士団はどのように人々を支配したのか?

まずこの展示では、中世武士団を「世襲制の職業戦士集団」と位置づけております。

最初に目にするのは、武士の残忍さが描かれたショッキングな《紙本著色後三年合戦絵詞》(模本)などの絵画資料です。
このような絵画資料を前に、私たちに展示パネルはこのような問いを投げかけます。

果たして武士団は、圧倒的な武力を振るう残忍な戦士集団のまま、暴力と恐怖によって人びとを支配したのでしょうか。

中世の武士の意外な一面

この展示では、中世の武士の意外な歴史的事実を知ることができます。
ここでは、武士の奉公と居館の2つについてご紹介していきます。

武士の奉公:仕事をサボる意外な口実

この展示で一番驚いたのは、武士の意外な仕事ぶりです。
仕事をサボるために、仕事の前日にワザと肉を食べて「ケガレた身体」になって、奉公を逃れる口実を作った記録が『新刊吾妻鏡』という史料に残されています。

武士の居館:軍事的要素の薄い屋敷

この展示では、武士の生活空間を「屋敷」と定義づけています。
ここで知ることができたのは、屋敷が開放的空間で軍事的な要素は薄かったという歴史的事実です。
屋敷が要塞化したのは南北朝時代以降で、それでも柵(さく)や塀(へい)が設置された程度だったことがわかります。

その後の要塞化は、山城から巨大な城郭へと発展していきます。

ちなみに、私たちがイメージする巨大な城郭建築は、安土桃山時代から江戸時代初頭のはじめ(16世紀後半から17世紀初頭)の約50年間に集中しています。

地域の中心になるまで

次は、この展示のメインテーマと考えられる「中世武士団がいかにして地域に受け入れられたのか?」というところで、印象に残ったことを記していきます。

インフラ整備

昔から権力の基盤には富と権力が欠かせません。富を得る手段として、交易の拠点を抑えることは必須条件です。
中世武士団は、用水路の整備・灌漑や集散地(交易の場である市場や湊など)づくりなどを通じて、実質的に地域を支配していく様子を知ることができます。

個人的に特に興味深かったのは、町場(まちば)とよばれる集散地が自然発生的に形成されたのではなく、領主側の仕掛けで形成されたという歴史的事実でした。

宗教的なつながり

恐怖だけでは、ほんとうの意味で地域の人々に受け入れてもらうのは難しいです。
展示室Bでは、冒頭で提示された「問い」の答えにつながりそうな展示がされています。
ここでは、「撫民(ぶみん)」というキーワードで、武士が民衆に向き合った様子を知ることができます。

武士は、寺社への寄進や祭礼のサポートなどを通じて、民衆が平穏無事に暮らせることを願っていることを目に見える形で示した様子が展示されています。

個人的に特に興味深かったのは、武士がいかに信仰と殺生の折り合いをつけるべきかという問答が記された『広疑瑞決集(こうぎずいけつしゅう)』という史料でした。

このように中世武士団は、宗教的な権威を利用して地域支配の正当性を得ようとした様子を知ることができます。

世俗権力とのつながり

最後にご紹介するのは、中世武士団と世俗権力とのつながりです。
中世武士団は、彼らの地域支配の正当性を室町幕府とのつながりを通じて得ようとした様子を、絵画資料や「唐物威信財」とよばれる中国の陶磁器などを通じて知ることができます。

個人的に特に興味深かったのは、京都の文化が地方へ伝わった背景です。

一般的に伝わっている話では、文化が応仁・文明の乱をきっかけに、京都の文化が地方に伝わったとされています。
しかし実際には、武士はそれ以前から京都の文化を取り入れて、自らを権威づけをしようとした歴史的事実を知ることができます。

このように中世武士団は、世俗的な権威も利用して地域支配の正当性を得ようとした様子を知ることができます。

おわりに

「中世武士団」展は、武士が領主として地域社会に受け入れられていく過程について、わかりやすく展示されている企画展です。

特に中世の領主支配の実態について、多くの興味深い歴史的事実を知ることができます。

「中世武士団」展は、文書やモノ、フィールドワークからのシナジー効果を感じた迫力のある展覧会です。
特に、中世の日本史に関心のある方へおすすめします。

「中世武士団」ついてさらに知りたい方へ

ここでは、中世武士団の理解を深めるのに役立つおすすめ本を3冊ご紹介します。

石井進『中世武士団』

『中世武士団』は、日本中世史の第一人者の1人だった故石井進先生の著作です。中世武士団の世界観を知ることができる本です。最初に読む本としてもおすすめです。

田中大喜編『中世武家領主の世界: 現地と文献・モノから探る』

『中世武家領主の世界: 現地と文献・モノから探る』は、「中世武士団」展を企画された田中大喜先生が編集しています。最新の研究成果を知りたい方におすすめです。
田中先生単著の『中世武士団構造の研究』を先に読むと、より理解しやすいかもしれません。

関幸彦『武士の誕生』

『武士の誕生』は、日本中世史で多くの著作を持つ関幸彦先生の本です。「中世武士団」展のテーマからは外れますが、武士の成り立ちを知っておきたい方におすすめします。

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この記事が、皆様のお役に立てれば幸いです。

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