【感想】「大蒔絵展」蒔絵1000年の名品をめぐる美の旅へ

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この記事では、「大蒔絵展 漆と金の千年物語」の感想や楽しみ方についてご紹介していきます。
「大蒔絵展」を通じて知ることのできる時代ごとの蒔絵の特徴や社会背景などについても書いています。

はじめに

「大蒔絵展」は、平安時代から現代までの蒔絵の名品に焦点を当てた特別展です。
2022年から2023年に静岡・東京・名古屋で開催してしています。

「大蒔絵展」では、漆と金粉、銀粉を表現された美しい蒔絵を中心に、120点以上が出品されています。
蒔絵の最高傑作ともいわれる「初音の調度(ちょうど)」(家光の娘の嫁入り道具)はもちろん、琳派の大胆なデザインの硯箱に加えて、期間限定で《源氏物語絵巻》も見ることができます。

「大蒔絵展」のおすすめポイントは、2つあります。

  • 展覧会史上初、平安時代から現代までの代表的な蒔絵を鑑賞できる稀な機会。
  • 豪華な作品を鑑賞できる稀な機会。

巡回の最後は名古屋の徳川美術館で、2023年4月開催予定です。

この記事は東京会場(三井記念美術館)の内容をもとにして書いていますが、展覧会に行けなかった方や、2023年開催の名古屋会場(徳川美術館)に行く方にも参考になると思います。

ここからは、一般の愛好家として「大蒔絵展」をどのように楽しんだか、主観的な見どころや感想、あらかじめ知っておくと便利なことをお伝えしていきます。

特別展「大蒔絵展」の構成とみどころ

「大蒔絵展」は、このように8章で構成になっています。

  • 源氏物語絵巻と王朝の美
  • 神々と仏の荘厳
  • 鎌倉の手箱
  • 東山文化 ― 蒔絵と文学意匠
  • 桃山期の蒔絵 ― 黄金と南蛮
  • 江戸蒔絵の諸相
  • 近代の蒔絵-伝統様式
  • 現代の蒔絵-人間国宝

平安時代の蒔絵:宮廷文化と宝箱

蒔絵の制作は奈良時代にさかのぼりますが、本格化するのは平安時代からです。
貴重な装飾経を納める経箱や仏具類を納める宝箱としての蒔絵が登場します。

蒔絵と古筆・経巻・絵巻との共通点

《石山切》などの古筆からは、料紙と蒔絵のデザインに共通性があることを知ることができます。
文字を紙に「散らす」のと、金銀の粉を漆に「蒔く」というところも興味深いです。

期間限定で、「大蒔絵展」のもう1つの目玉である《源氏物語絵巻》も出品されています。
参考出品の模本やほかの物語絵巻からも、料紙の雰囲気が伝わると思います。
蒔絵の箱の中身の装飾経や物語絵巻、蒔絵のデザインに通じる古筆を通じて宮廷文化に思いをはせることができます。

また《片輪車蒔絵螺鈿手箱》のような経箱や、仏具類からは、篤い信仰心を感じることができます。

中世の蒔絵:武家への広がり、技法の確立・進化

中世は、蒔絵が武家に広がり、制作技法の確立・進化、デザインが多様化していきます。

鎌倉時代の蒔絵:写実的・パターン化したデザイン

鎌倉時代になると、蒔絵の基本3技法(研出蒔絵・平蒔絵・高蒔絵)が確立し、新たなデザインが登場します。
金地の蒔絵、平安時代よりも大きなサイズの蒔絵、有職文様とよばれるパターン化した模様や写実的なデザインも印象的です。

例えば《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》は、丸い模様に螺鈿と金で、有職文様とよばれるパターンを表現しています。

室町時代の蒔絵:和歌や物語を題材にしたデザイン

室町時代は蒔絵をつくる技法がほぼ完成した時期といわれています。
和歌や物語を題材にしたデザインが登場します。
文字が埋め込まれた葦手絵(あしでえ)とよばれる蒔絵です。
文字と絵とあわせて文学的な内容を読み解く楽しみが蒔絵にも加わったようです。

例えば《男山蒔絵硯箱》は、銀色で埋め込まれた文字があります。
いろいろな技法が駆使されつつ、漆黒と金銀の「きらきら」のバランスの良さを感じます。
落ち着いた上品な蒔絵です。

またこの時代になると、蒔絵師が記録に登場するようになります。
幸阿弥(こうあみ)家と五十嵐家で、8代将軍足利義政とのつながりがあります。
後にそれぞれ幸阿弥派、五十嵐派とよばれる蒔絵の流派につながっていきます。

近世の蒔絵:新しい役割ー権力のシンボル・アクセサリー

近世に入ると、蒔絵の守備範囲が広がっていきます。

桃山時代の蒔絵:インテリアと輸出工芸品

安土桃山時代に入ると新たな展開があります。
1つめは、蒔絵がインテリアデザインとして取り入れられます。
2つめは、南蛮漆器とよばれる西洋向けの蒔絵の登場です。

大量注文に応えた高台寺 (こうだいじ) 蒔絵

この時期は、秀吉らの大量注文をこなす必要があったため、短期間で制作ができる高台寺(こうだいじ) 蒔絵とよばれる新たなスタイルが誕生しました。

室内空間や調度品にも用いられた高台寺蒔絵は、一見シンプルですが、現在にも通じるデザインに感じます。
例えば《秋草蒔絵歌書簞笥》は、草花の模様が印象的です。
草花のような身近なモチーフが、モダンに感じる理由かもしれません。

この時代は、蒔絵が宝箱から室内空間を彩るようになったこともの大きな特徴の1つです。
生活用品から権力を誇示するツールとしての新たな役割が加わります。

西洋人も魅了した蒔絵

この時期は西洋人との南蛮貿易が始まり、蒔絵は輸出工芸品となりました。
西洋人のニーズに対応した蒔絵の工芸品が登場します。
例えば《花樹鳥獣蒔絵螺鈿聖龕(せいがん)》は、仏壇のような観音開きの厨子(ずし)です。
驚いたのはイエス・キリスト像が収められているところです。
扉の蒔絵をアクセントに効かせた額縁と絵画の組み合わせのようにも感じます。
さらにキリスト像と日本的な秋草模様の組み合わせは、蒔絵の東西文化の融合を感じます。

江戸時代の蒔絵:

江戸時代の蒔絵には次のような特徴があります。

  • 超絶技巧の精巧なデザイン
  • 琳派に代表される個性的で大胆なデザイン。
  • 印籠や櫛(くし)など、手のひらサイズのアクセサリーの登場

その中で印象に残った作品をご紹介します。

蒔絵の最高傑作「初音の調度」

「初音の調度」は、徳川家光の娘である千代姫の婚礼調度(嫁入り道具)です。
『源氏物語』の「初音」をモチーフとしたデザインで、幸阿弥長重が制作した蒔絵です。

一見するだけで、豪華でありとあらゆる技法がこらされていることがわかります。
嫁入り道具のシンボルである貝桶の《初音蒔絵貝桶》からは、徳川将軍家の威信をかけて制作されたことを感じる作品です。

『源氏物語』が日本美術で重要なモチーフがであることを改めて感じます。

源氏物語の全体像と大まかな概要を手早くつかめるおすすめ本と動画

琳派の大胆な表現

琳派の蒔絵からは、今まで見てきた蒔絵とは異なる印象です。
大胆な表現は、ものすごいインパクトです。
ここでは2つの作例をご紹介します。

1つめは、尾形光琳の《八橋蒔絵螺鈿硯箱》です。
『伊勢物語』を題材に、八橋と燕子花をモチーフにした大胆なデザインです。

もう1つは、原羊遊斎(ようゆうさい)と酒井抱一のコラボ作品の《蔓梅擬目白蒔絵軸盆》です。
蔓梅擬(つるうめもどき)の枝が左下から右上に伸びるデザインと、黒い漆でスペースが多くとられているところが印象的です。

蒔絵が権力者から裕福な町衆にも広がっていきます。

近現代の蒔絵:

近現代の名工の作品が展示されています。
特に印象に残ったのは、松田権六の《赤とんぼ蒔絵箱》でした。
赤とんぼに動きを感じる葦(あし)が印象的です。

おわりに

「大蒔絵展」は、平安時代から現代までの蒔絵の名品を通じて日本文化の奥深さを知ることができた展示です。
日本文化と美術が、わたしたちの日常生活とつながっていることを改めて感じました。

「大蒔絵展」は、蒔絵を初めて鑑賞する方からファンの方まで、いろんな楽しみ方ができる展覧会です。

この記事が、皆様の参考になれば幸いです。

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