この記事では、「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展の感想や楽しみ方についてご紹介していきます。
「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展は、省亭の画業を振り返る大規模な展覧会です。
定評のある花鳥画を中心に(前後期合わせて)約100点が出品されています。
またこの展覧会は、東京と愛知、静岡を巡回します。
2021年7月11日まで、岡崎会場(岡崎市美術博物館)で開催中です。
2021年7月17日からは、三島会場(佐野美術館)で開催されます。
ここからは、一般の愛好家として「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展をどのように楽しんだか、主観的な見どころや感想を中心にお伝えしていきます。
なおこの記事は、東京会場(東京藝術大学大学美術館)の展示をもとに執筆しておりますが、他の会場で作品をご覧になる方にも参考になると思います。
ブレイク間近な花鳥画の名手、渡辺省亭
渡辺省亭は、明治・大正時代に活躍した日本画家です。
驚異的な筆づかいと観察力で、伝統的な日本美術と西洋美術の要素を組み合わせたオリジナリティの高い作品を生み出しました。
特に花鳥画は、国際的にも高い評価を得ています。
日本では長年忘れられた存在でしたが、実は日本近代美術のパイオニアともいえる存在です。
近年の再評価で注目を集めており、ポスト伊藤若冲ともいわれています。
「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展の見どころ
「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展では、このような素晴らしい作品を楽しむことができます。
- 魅惑的な花鳥画の作品
- 超絶技巧な技術を持つ七宝作家とのコラボ作品
- 江戸情緒あふれる作品
ここからは、その中でも特におすすめの作品をご紹介していきます。
魅惑的な花鳥画
渡辺省亭の作品といえば、花鳥画です。
画業のシンボル《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》
今回ご紹介するのは、渡辺省亭の画業のシンボルともいえる《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》です。
迎賓館赤坂離宮 七宝額は、濃淡やぼかしを表現できる「無線七宝」とよばれる技術を開発した濤川惣助(なみかわそうすけ)と、原画を担当した渡辺省亭とのコラボレーション作品です。
「花鳥の間」30面、「小宴の間」2面のうち、(前後期合わせて)10点を鑑賞できます。
第一印象は、他の花鳥画よりも、派手めなところです。
省亭の他の花鳥画と比べるとやや濃い色調です。
晩餐会の会場を飾る作品として、華やかさを意識したのかもしれません。
その一方で、迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額を鑑賞した時の記憶をたどると、原画の表現は七宝よりも繊細に感じます。
最小限の線描で対象を表現した驚異的な筆づかいも印象的です。
「花鳥の間」の七宝額をイメージできる作品
残念ながら「迎賓館赤坂離宮 七宝額」は、この展覧会に出品されていません。
しかし、迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額を思い浮かべられるオススメの作品があります。
例えば、《七宝四季花卉図花瓶》は、大きな花瓶に草花が描かれた作品です。
七宝ならではの美しい光沢や質感からは、華やかな「花鳥の間」の七宝額に近い雰囲気を感じます。
もう1つの作品は《七宝墨画月夜深林図額》です。
無線七宝の超絶技巧に驚かされる作品です。
七宝額絵とは思えない水墨画のような繊細さが印象的です。
2人の天才が創り出した素晴らしい七宝作品も見どころです。
江戸情緒あふれる作品
生粋の江戸っ子の省亭は、江戸情緒あふれる作品も残しています。
美人画や風俗画からは、モダンさとなつかしさの両方の要素を感じます。
花鳥画とは違う省亭の世界観を楽しむことができます。
情感あふれる《四季江戸名所》
《四季江戸名所》は4幅の掛け軸で四季を表現した作品です。
主題の人物の艶っぽさと、江戸の定番スポットの描写が印象的です。
渡辺省亭の美人画は、鏑木清方の表現に影響を与えたと言われています。
わたくしは、《四季江戸名所》「春 上野清花」を観たときに、描かれている傘から、鏑木清方と同門の小村雪岱の作品を思いだしました。
初公開の《七美人之図》
《七美人之図》は海外美術館所蔵作品で、国内初公開の作品です。
7人の女性が、やや大きなサイズに描かれています。
花魁から町娘にいたるさまざまな女性のカラフルさと背景の竹林の濃淡の表現のコントラストが印象的です。
省亭の多彩さを物語る作品
ここからは、渡辺省亭の多彩な才能を感じたその他の興味深い作品をご紹介していきます。
ドガの旧蔵品《鳥図(枝にとまる鳥)》
渡辺省亭は、日本画家として最初にヨーロッパへ行った人物です。
《鳥図(枝にとまる鳥)》は、パーティでのデモンストレーションで描かれた作品です。
その席で、省亭が印象派の画家エドガー・ドガにプレゼントしたものです。
省亭とヨーロッパの画家が、アーティストとして対等な付き合いをしていたことを物語る作品です。
省亭の並外れた筆づかいを垣間見られる書《名号》
1つだけ変わり種の作品が展示されています。
それが、省亭による書《名号》です。
渡辺省亭は、歴史画で定評のある菊池容斎の弟子でした。
菊池容斎は、省亭に絵ではなく書の練習をさせました。
修行時代に練習した書は、省亭の技術を支えた筆づかいの基盤形成に役立ちました。
《名号》は、省亭の並外れた筆づかいが堪能できる作品です。
若冲の大作をお手本に描いた《雪中鴛鴦之図》
省亭の《雪中鴛鴦之図》(せっちゅうえんおうのず)は、伊藤若冲の大作《動植綵絵 雪中鴛鴦図》をお手本に描いた作品です。
若冲の作品は、雪の表現にウエットさを感じます。
それに対して、省亭の《雪中鴛鴦之図》は、若冲の作品よりも構図をシンプルに整理して、薄味な色調に仕上げているところが印象的です。
若冲の作品との相違点は解説パネルで比較できます。
渡辺省亭の作品を楽しむ別の方法
「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」の東京展は臨時休館で閉幕してしまいました。
しかし下記の会場で、この展覧会をご覧になることができます。
- 愛知展:岡崎市美術博物館; 2021年5月29日~7月11日
- 静岡展:佐野美術館; 2021年7月17日~8月29日
ここでは「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展以外で、省亭の名品を楽しむ別の方法を、いくつかご紹介していきます。
迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」で七宝額を鑑賞
まずご紹介したいのは、迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額です。
渡辺省亭と濤川惣助(なみかわそうすけ)がタッグを組んだ迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額は、日本近代美術が生み出した大傑作です。
「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展を手掛けた東京藝術大学の古田亮教授は、《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》を省亭の代表作にふさわしい作品と高く評価しています。
明治政府が国家の威信をかけて建設した迎賓館赤坂離宮は、その外観や室内装飾も興味深いです。
迎賓館赤坂離宮は、ほぼ通年で見学できるので、おすすめです。
渡辺省亭のおすすめ本
次にご紹介するのは、渡辺省亭の画集です。
現在入手可能な渡辺省亭の画集は、3つあります。
1つは高価な豪華版ですので、ここでは主に2つご紹介します。
結論から言うと、どちらを購入しても大丈夫です。
どちらも渡辺省亭の画業が紹介され、代表作も網羅されています。
公式ガイドブック『渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-』
こちらは、展覧会に合わせて刊行された図録兼公式ガイドブックです。
次のような特徴があります。
- 「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展に出品された作品が掲載されている。
- 作品に没入できる構成になっている。
- 《迎賓館赤坂離宮 七宝額》は原画重視の紹介。
- 原寸大の拡大図があるので、筆づかいが堪能できる。
日本初の画集『渡辺省亭 花鳥画の孤高なる輝き』
こちらは、2017年に日本で最初に刊行された渡辺省亭の画集です。
次のような特徴があります。
- 《雪中鴛鴦之図》と若冲の《動植綵絵 中鴛鴦図》の比較ができる。
- 《迎賓館赤坂離宮 七宝額》は、七宝重視の紹介。
- 渡辺省亭の評伝が読める。
決定版の豪華画集『渡辺省亭画集』
こちらは、初めて刊行された本格的な渡辺省亭の豪華画集です。
ミュージアムショップで立ち読みしてみました。
「さすが決定版!」という重厚な構成です。
おわりに
今回の記事では、「渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画」展の見どころとして、花鳥画の作品と江戸情緒あふれる作品を取り上げてみました。
江戸っ子である渡辺省亭は、師匠の菊池容斎の下で筆づかいと観察力を磨き、七宝のコラボ作品、花鳥画の制作まで多彩な画業を積み重ねた日本近代美術のレジェンドともいえる存在です。
研究が進むにつれ、渡辺省亭の評価がさらに高まるのは間違いありません。
この記事が、皆様の参考になれば幸いです。
【関連情報】「新版画」鑑賞のおすすめ本
新版画は、浮世絵の制作技術と西洋絵画の要素が融合された「浮世絵の進化版」ともいえる木版画です。
海外では浮世絵と同様に、新版画も高評価を得ている日本美術です。
特にアメリカを中心に、多くのファンやコレクターがいます。
新版画は日本でも再評価されており、近年人気が高まっています。
展覧会で鑑賞する機会も増えておりますので、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。