この記事では、京都国立博物館で開催している特別展「皇室の名宝」の感想、見どころ、楽しみ方についてご紹介していきます。
「皇室の名宝」展は、宮内庁が所蔵する名品を中心に、(前後期合わせて)約100点が出品されています。
その中には、伊藤若冲の「動植綵絵」(どうしょくさいえ)や、絵巻物の最高峰である「春日権現験記絵」、教科書でおなじみの「蒙古襲来絵詞」なども含まれています。
ここからは、一般の愛好家として「皇室の名宝」展をどのように楽しんだか、主観的な見どころや感想を中心にお伝えしていきます。
はじめに
「皇室の名宝」展は、宮内庁三の丸尚蔵館のコレクションを中心に構成されています。
三の丸尚蔵館の所蔵品は、もともとは皇室に代々伝わる美術品でした。
宮内庁所蔵のため、国宝や重要文化財の指定を受けておりませんが、実質的には国宝級の名品揃いです。
なお、特別展「皇室の名宝」展は日時指定指定制です。オンラインでチケットを入手する必要があります。
日時指定チケットの購入は、宮廷文化の息吹を感じる「雅な旅立ち」の始まりでもあります。
必見の「動植綵絵」と「春日権現験記絵」
特別展「皇室の名宝」展は、宮内庁三の丸尚蔵館のコレクションを中心に構成されているので、見どころたっぷりです。
しかし会期が1ヶ月半と短く、前期と後期で展示替えがあります。
まず最初に、全会期に渡って鑑賞できる作品として、
- 伊藤若冲の「動植綵絵」(30幅のうち8幅。前後期で各4幅ずつ)
- 鎌倉絵巻物の最高峰である「春日権現験記絵」
をご紹介していきます。
行列なしで鑑賞できる若冲の「動植綵絵」
1つめは、伊藤若冲の大作として知られる「動植綵絵」です。
今回の特別展では、30幅のうち8幅(前期、後期で各4幅ずつ)が出品されます。
細かくてカラフルな描写に圧倒されます。
その中でも「雪中錦鶏図」の幻想的な雰囲気が、印象に残りました。
雪の粉で表現する空気感が素敵です。
「動植綵絵」は、伊藤若冲が相国寺に寄進するために描いた作品です。
これらの作品からは、鬼気迫るものも感じることがあります。
若冲の信仰心を感じているのかもしれません。
後期は、パンフレットや広告に載っている「旭日鳳凰図」が登場します。
絵巻物の最高峰である「春日権現験記絵」も
2つめは、大和絵の最高峰とも称される「春日権現験記絵」です。
「春日権現験記絵」は、絵画は高階隆兼、詞書は前関白鷹司基忠らの4人によって、鎌倉時代に制作された絵巻物です。
人物や衣服、建物、風景にいたるまで、細かく描き込まれています。
その表現は美しく、エレガントです。
(修復のおかげで)鎌倉時代の作品とは思えないほど、鮮やかに発色にも感動します。
この素晴らしい絵巻物を通じて、中世の宮廷文化の一端をイメージすることができます。
「春日権現験記絵」は、西園寺公衡が、藤原氏一門のこれまでの繁栄への感謝と、今後の発展を祈念して、春日大社に奉納したものです。
このため、藤原氏と関わりのある春日大社と興福寺が登場します。
信仰の背景も気になるところですが、目の前の現実世界に存在する「春日権現験記絵」の美しさに目を奪われておりました。
後期は、場面替えをして展示されます。
雅な世界を楽しむ
皇室ゆかりの名品が数多く出品されているので、雅な世界を楽しむことができます。
日本の王朝文化というと、和歌や源氏物語を思い浮かべる方も多いかと思います。
「皇室の名宝」展では、和歌と源氏物語に関する名品もあります。
そして、朝廷の儀礼にまつわる意外なストーリーを知ることもできます。
漢字とかな、文字と料紙のハーモニー
中国の影響を受けた漢字と、その後の仮名文字の変遷も、名品を通じて知ることができます。
例えば、平安時代に藤原行成が書いたと伝わる「雲紙本和漢朗詠集」は、漢詩と和歌が書き込まれ、変化に富む書体が印象的な作品です。
文字だけではなく、藍色で染まった料紙とよばれる装飾された紙の美しさも見どころです。
源氏物語の世界観
源氏物語をモチーフにした作品も、見どころの1つです。
その中で印象に残った作品の1つは、「源氏物語画帖」です。
「源氏物語画帖」の美しさは、土佐光吉ら土佐派のやまと絵と、後陽成天皇ら自筆の文字、美しい料紙によるコラボレーションの賜物です。
江戸時代の表現による、平安王朝の雅な世界を楽しめます。
後期は、狩野永徳が描いたと伝わる「源氏物語図屏風」(左隻)も展示されます。
近世以降の名品コレクションも
三の丸尚蔵館は、伊藤若冲の「動植綵絵」の他にも、近世以降のコレクションも所蔵しております。岩佐又兵衛の「小栗判官絵巻」も、見逃せない作品の1つです。
尾形光琳の「西行物語絵巻」とともに、多くの来館者が足を止めて鑑賞していた人気作品の1つです。
近世絵巻物の傑作「小栗判官絵巻」
岩佐又兵衛の「小栗判官絵巻」も、印象に残った作品の1つです。
「小栗判官絵巻」は、全15巻で全長が300メートルを超える近世の大作です。
今回はそのうちの3巻が出品されています。
(前後期で場面替えをして展示されます)
「小栗判官絵巻」は、悲しいラブストーリが表現された絵画です。
豪華絢爛な絵画とともに、岩佐又兵衛の創り出す世界観の一端を感じることができます。
「豊国祭礼図屏風」や「洛中洛外図」など、岩佐又兵衛が制作した風俗画屏風との相違点をイメージしながら観賞する楽しみもありそうです。
海北友松のカラフルなやまと絵屏風
海北友松の「浜松図屏風」(前期のみ)も、印象的な作品でした。
海北友松には、モノクロのイメージがあったので、やまと絵風のカラフルな作品も素晴らしかったです。
後期は、「網干図屏風」を鑑賞できます。
宮中の中国風の礼服にびっくり
「皇室の名宝」展では、朝廷の儀式にもフォーカスしています。
興味深かったことの1つは、礼服でした。
礼服は朱色の生地で、龍の刺繍が入っているのです。
会場では、江戸時代の東山天皇と、孝明天皇が着用した礼服が展示されています。
幕末まで、宮中で中国服の礼服が用いられていたことは興味深かったです。
終わりに
「皇室の名宝」展では、伊藤若冲の「動植綵絵」を始め、鎌倉絵巻物の最高峰である「春日権現験記絵」を始めとする書画を堪能することができます。
その他にも、歴史の本や教科書に登場する「蒙古襲来絵詞」も、通期(前後期で場面の展示替えあり)で鑑賞できます。
その中で私が印象に残ったのは、やまと絵が描かれている絵巻物の名品の数々でした。
華やかな色彩の絵画や、優雅で時には力強い文字、絵画と文字を引き立てる美しい料紙に、日本らしさを感じました。
また、冒頭にご紹介した「動植綵絵」「春日権現験記絵」からは、(信仰に基づく)真摯な思いを感じ取ることができます。
現代に生きる私達が、これらの作品に感情を強く動かされる理由は、そのあたりにあるのかもしれません。
「皇室の名宝」展の会期は、わずか1ヶ月半と短いです。
この記事の執筆時点で、ほぼ折り返し地点を迎えております。
「皇室の名宝」展は、三の丸尚蔵館のまとまったコレクションとともに、宮廷文化の世界観を感じることができます。
おすすめの展覧会ですので、この記事を読んで気になった方はぜひ会場に足を運んでみてください。
この記事が、皆様の参考になれば幸いです。