【感想】日時指定制のロンドン・ナショナル・ギャラリー展はおすすめ

美術館・博物館

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、日時指定制入場を導入しております。
そのため、日時指定チケットを公式サイトで購入する手間がかかります。

その一方で、日時指定制入場は、展示室内の人数も制限されます。
それは、展示室に入場できる人数が少ないので、ゴッホの《ひまわり》を始めとする素晴らしい作品をゆっくり鑑賞する大チャンスともいえます。

この記事では、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を鑑賞した愛好家として、主観的な感想や楽しみ方、「一生に一度」レベルのチャンスと思った理由について書いていきます。

さらに、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の予習・復習に役立つ本もご紹介していきます。

はじめに

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、ゴッホの《ひまわり》を始めとする「名品中の名品」が鑑賞できる企画展です。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの所蔵作品が、館外で、展示・公開されるのは世界初です。

このような歴史的な瞬間に、東京(2020年6月から10月)と大阪(2020年11月から2021年1月)で立ち会うことができます。

おすすめする3つの理由

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」をおすすめする理由は次の通りです。

  • 門外不出のオールスターが鑑賞できる。
  • イギリスから見たヨーロッパ絵画を体感できる。
  • 快適な環境で名品をゆっくり鑑賞できる。

このように、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、いろんな意味で「一生に一度」レベルのチャンスともいえる特別展です。

『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 完全ガイドブック (AERAムック)』

必見の名品2点

今回出品されている 61 点すべてがエース級です。
その中でも、次の2点は必見です。

  • カルロ・クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》
  • フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》

細部の表現力が際立つクリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》

1つめは、カルロ・クリヴェッリの《聖エミディウスを伴う受胎告知》です。

《聖エミディウスを伴う受胎告知》は初期ルネサンスの作品で、キリスト教の重要な場面を描いています。

大画面に細かく描かれた、受胎告知のストーリーに圧倒されます。

この作品で印象深いのは、シャープさと精密さです。
遠近法で描かれた直線的なラインや描写の精密さと明るい色が印象的です。

細部に描かれている彫刻、織物や孔雀の表現力にも圧倒されます。
孔雀の精密さは、若冲の『動植綵絵』(どうしょくさいえ)の鶏の絵を想起しました。

「受胎告知」は多くのアーティストによって描かれていますが、この作品はとても個性的です。

単眼鏡で鑑賞すると、細部の美しさと表現力をさらに楽しむことができます。

圧倒的な存在感のファン・ゴッホ《ひまわり》

2つめは、フィンセント・ファン・ゴッホの《ひまわり》です。

《ひまわり》は最後の展示スペースに1点だけ独立した形で展示されています。
選りすぐりの名品揃いの「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」でも特別扱いです。

まず、最初に驚いたのは、その色彩です。

明るく輝く厚塗りの黄色がまぶしいです。
(照明の効果もあると思いますが)印刷物よりもはるかに明るい黄色です。

実物が持つ圧倒的なエネルギー言葉を失います。

《ひまわり》が特別なゴッホの作品であることを体感します。
そして、実物が持つ圧倒的なエネルギーを感じます。

この展覧会の最後を飾るのにふさわしい作品です。

別バージョンの《ひまわり》

ちなみに、ファン・ゴッホは南仏アルルで《ひまわり》を7点制作しています。

出口前のパネルで、7点の《ひまわり》について、興味深い内容が解説されています。

そのうちの1点が、東京の SOMPO 美術館(旧名称:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)にあります。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」会期中は、実物の別バージョンの《ひまわり》を日本国内で比較できるまたとないチャンスです。

《ひまわり》について更に知りたい方は、こちらの本がおすすめです。

『ゴッホのひまわり 全点謎解きの旅 (集英社新書)』
『解説 フィンセント・ファン・ゴッホ ひまわり』

イギリスならではの肖像画と風景画

イギリス絵画を語る上で、必ず登場する巨匠が2人います。

ヴァン・ダイクとターナーです。

ヴァン・ダイクは宮廷画家で、肖像画で有名です。
ターナーは、風景画で有名です。

特にターナーは、後年の画家に与えた影響力などから、イギリス絵画のシンボルといえる存在です。

ヴァン・ダイクの壁は厚かった?

ヴァン・ダイクはイギリス肖像画に大きな影響を与えた画家で、イギリス絵画を語る上で欠かせない重要人物です。

本展で出品されているのは、《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー》 です。

まずドレスやアクセサリーの描写が美しいです。
描かれている人物のエレガントさにうっとりします。

現在のカリスマフォトグラファーのように、注文主をより優雅に表現します。

当時、ヴァン・ダイクが人気だった理由を体感できます。

イギリス人画家、例えばトマス・ローレンス《シャーロット王妃》も印象的でしたが、やっぱりヴァン・ダイクの影響力の大きさを実感しました。

ヴァン・ダイクとゴヤの比較

ちなみに、このあとにスペイン絵画のセクションがあります。
そこでは、ゴヤの《ウェリントン公爵の肖像》という肖像画を観ることができます。

ウェリントン公爵は、ナポレオン戦争の英雄です。
しかしその神経質な表情は、とても英雄に見えません。

  • 注文主の「あるべき姿」を描いたヴァン・ダイク
  • 注文主の期待より自らの表現を優先したゴヤ

この2点の対比も楽しめます。

師匠を乗り越えたターナー

ターナーは、イギリス絵画のシンボルともいえる重要人物です。

ターナーが、カナレットやクロード・ロランの影響を受けて、独自の作風に到達するまでの様子を楽しむことができます。

ここでは、ターナーの師匠筋の画家であるカナレットとクロード・ロラン、ターナーの作品を1点ずつご紹介します。

写真のような正確さが印象的なカナレット

1つめは、カナレットの《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》です。

この作品は、立体的で全体的にシャープな描写です。
精密で写真のような絵画です。

特に建物と光が印象的です。

カナレットは、「売れる絵」を生産するために理想化された風景を描いています。

イギリスからの旅行者が、旅の思い出として購入したカナレットの絵画が、イギリスに持ち込みます。

このようにカナレットの絵画は、イギリスの風景画の発展に影響を与えます。

眩しい夕日が印象的なクロード・ロラン

2つめは、クロード・ロランの《海港》です。

最初に驚いたのは、(多分)海に沈んでゆく夕日から輝く光です。
《海港》からの見える光は、本当に眩しく感じて、びっくりしました。

クロード・ロランの作品で典型的なのが、地平線の近くにある低い太陽とそれが放つ黄金色の光です。
そして空と海のグラデーションは、幻想的な雰囲気を演出しています。

カナレットも、絵が映えるようにヴェネツィアの風景を「歪曲」しています。
しかし、クロード・ロランは、風景を「理想化」したのが特徴です。

古代風の建物は、理想化されたものだといわれています。

船の躍動感と空気感が印象的なターナー

3つめは、ターナーの《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》です。

太陽の光の表現が美しいです。自然な光の広がりを感じます。
そして、船の躍動感も印象的でした。こちらに向かっているようです。

波や周辺の煙の描写が船の動きを感じるのかもしれません。
色彩や筆さばきの痕跡、抽象的な表現は、ターナーのオリジナリティを感じます。

このような個性が、近代絵画に影響を与えたと言われる所以かもしれません。

ちなみに、ターナーについてさらに知りたい方は、こちらの本と伝記映画がおすすめです。

『もっと知りたいターナー 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)』
 『ターナー、光に愛を求めて』(DVD)

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おわりに

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、名品で西洋美術の発展を楽しめる素晴らしい展覧会でした。

ファン・ゴッホの《ひまわり》の他にも、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが誇る、さまざまな時代、地域、様式の名品が勢揃いしています。

ひと手間かけて日時指定入場チケットを購入する価値あり

幸いにも「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、開催することができました。
しかし昨今の新型コロナウイルスは、美術展の開催や運営にも大きな影響を与えています。

「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」でも、安全確保のために日時指定入場制が導入されています。

時間が計算できる。

日時指定入場制の導入は、思い立ったときに来館できないし、ネットでチケットを購入するのも面倒かもしれません。

しかし、その面倒さを乗り越えると、快適な鑑賞体験が得られます。

まず、待ち時間が短く、長い行列にも並ばなくて良いのがうれしいです。

数年前の若冲展やフェルメール展は悪夢でしたが、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、ほぼ待ち時間なしで、展示室に入ることができました。

忙しい方も、計画的に時間を使うことができるで安心です。

人数制限でゆっくり鑑賞できる

さらに素晴らしいのは、同じ時間帯の入場者が制限されていことです。

近年の美術展はいつも大混雑です。
名画や仏像でなく、人の頭を鑑賞しているようです。
すきまからやっとの思いで名品を「チラ見」するのが精一杯のこともあります。

しかし、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は違います。

なんと、ロンドン・ナショナル・ギャラリーでも人だかりで大人気の、ファン・ゴッホの《ひまわり》もゆっくり鑑賞できます。

最初で最後かもしれないチャンス

現在の状況を鑑みると、このような海外美術館が所蔵する大規模なコレクション展の開催が難しくなるかもしれません。

また、日時指定入場制導入は収益減少が予想されます。
今後の展覧会は、入場料金がさらに値上がりするかもしれません。

いろんな意味で、最初で最後かもしれないチャンスを活かすことをおすすめします。

「西洋美術入門」の参考記事とおすすめ本

なお、西洋絵画鑑賞を学べる展覧会の感想や、西洋絵画鑑賞の入り口におすすめの本や動画コンテンツの記事も書いていますので、こちらもご覧ください。

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この記事が、皆様の参考になれば幸いです。