世界の視点から古代の日本と周辺諸国の外交関係を考えるための手がかり

歴史

私達日本人が現在の国際関係を考えるときに、アメリカの黒船来航やイギリスによる自由貿易帝国主義を意識すると幕末・明治維新から振り返ることが多いです。

その一方で、中国や朝鮮半島との関係は古代にさかのぼり、紆余曲折を経て現在まで至っております。

このため現在起こっている問題を考えるためには、古代から続く中国や朝鮮半島との関係について知っておく必要があります。

ここでは古代の日本と周辺諸国の外交関係について、世界の視点で考える手がかりを考えていきたいと思います。

「東アジア文化圏」とは?

古代の東アジア世界では、漢字を媒介に、中国に起源する儒教、仏教、律令が周辺諸国に伝搬し受容されていきました。

西嶋定生氏は日本の歴史展開を、朝鮮や中国などの東アジア諸国の歴史と関連づけて考察する上での理論的枠組みとして、それらの文化を受容した地域を「東アジア文化圏」と名づけ、「東アジア世界論」して提唱しました。

冊封体制とは?

冊封体制とは、中国の皇帝と外交使節を派遣した周辺諸国の君主との間に、官職や爵位の授受にもとづいて成立した君臣関係で中国の皇帝を頂点とするものです。

冊封体制に入った日本や朝鮮、ベトナムなどの周辺諸国は中国の政治制度や漢字などの文化を取り入れることによって、国家を形成していきました。

西嶋氏によると、東アジアの世界を構成する「東アジア文化圏」の4つの指標には、

  • 漢字文化
  • 儒教
  • 律令制度
  • 仏教

があるとしております。

このような冊封体制と華夷思想が「漢字文化圏」の形成に大きな役割を果たしました。

冊封体制は東アジア諸国と中国王朝との関係のあり方や東アジア文化圏の形成を知る上で重要な要素の1つになります。

なおこちらの記事では、西嶋氏が「東アジア文化圏」の4つの条件の1つとした「仏教」を切り口に、古代の日中関係史の定説に挑んだ本について紹介しています。

東アジアの検証だけで十分なのか?

かつては冊封関係のあり方は主に東アジア諸国と中国王朝との関係で論じられてきました。

しかしその一方で、6世紀から8世紀の東アジアは冊封体制が機能した典型的な時代と考えられておりますが、日本は6世紀以降はこの体制から離脱していました。

さらに、北アジアや中央アジアの遊牧民族に関する研究の進展にともなって、東ユーラシアあるいは東部ユーラシア世界の観点からの研究も増えてきました。

このような研究を通じて、主に

  • 東アジア世界との相違点
  • 冊封関係が有効だった地域の範囲

といった新たな課題が浮上してきたことによって、北アジアや中央アジア、東南アジア諸国と中国王朝との関係も重視されるようになっていきました。
そこから東部ユーラシア世界の中で日本と中国王朝との関係について明らかにしようとしている研究も見られます。

例えば、渤海に広げて関係性をひろげて、日本や渤海と中国王朝との関係を広く中国と周囲の国々全体との関係性を検討しています。
もう1つの例としては、中国の南朝と東南アジア諸国、特に仏教諸国との交渉の記録から関係性を検討している事例があります。

このため西嶋氏の研究は、東アジア世界の冊封体制によるつながりが重視されているため、他の研究者からは、簡単に一元化できないといった批判もあります。

その一方で、中国と朝鮮半島の高句麗と百済、新羅との外交関係はそれ以外の地域よりも長期にわたるものです。
東アジア世界論は問題もありますが、日本と東アジア世界の関係を構造化しようとする方法は、古代の外交関係の理解を促進したともいえます。

その他のポイント

その他の特筆すべき主なポイントとしては、

  • 中国の文化は周辺諸国にそのまま受容されたわけでなく、周辺諸国の事情に合わせて導入された。
  • 唐の滅亡後は政治的なつながりよりも経済的なつながりが強まった。

ことがあげられます。

古代における東アジア世界の交流に関する課題

東部ユーラシア世界の検討も必要

その後の研究の進展によって、「東アジア世界論」の課題も明らかになっていきます。

他の研究者からは、古代におけるアジア世界の国際関係は東アジアだけでなく東部ユーラシア世界との関係についても検討が必要であるという指摘がされております。

身近な例として、東大寺正倉院宝物にはペルシアや中央アジアの影響を伝える宝物が多く収蔵されていることがあげられます。

このことは、日本との対外関係は、東アジアにとどまらず中央アジア、中近東といった東部ユーラシア世界についても考える必要があることを示しているといえます。

現在の世界情勢を知る手がかりの一つ

さらに東アジア諸国の外交関係の理解は、古代、中世、近世はもちろんのこと、日清戦争で冊封体制が崩壊してからの近現代史、そして現在の日韓中のナショナリズムや中国の世界戦略を始めとする世界情勢を考える上でも重要な手がかりになるといわれております。

こちらは中世から近世の日本の対外交流史に関する記事です。
よろしければこちらもご覧ください。

【歴史】中世から近世の日本と東アジア世界変革の意外な立役者とは?【交流史,グローバリゼーション】

おわりに

この記事を書くのに参考にした参考文献はこちらです。

参考文献

李成市 『世界史リブレット7 東アジア文化圏の形成』山川出版社 2000
金子修一 「東アジア世界論」荒野泰典他編『日本の対外関係1 東アジア世界の成立』吉川弘文館 2010

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