【感想】『文明の道』を読み解くヒント:世界史の勉強にオススメ

歴史

『文明の道』は、「NHKスペシャル」で放映された傑作ドキュメンタリーの1つです。
この記事では、『文明の道』シリーズを読み解くヒントをご紹介していきます。

『文明の道』は、「人類は文明を超えて共存できるのか?」という問いについて、過去の歴史から答えを探し求めていく動画コンテンツです。

アレクサンドロスの東方遠征からモンゴル帝国滅亡までの1600年の歴史から探していきます。

この動画コンテンツを観ると、他民族を征服した権力者が、多民族国家をどのように支配し、権力を維持していたかを学ぶことができます。

NHKスペシャル『文明の道』を視聴する

それでは、『文明の道』シリーズを読み解く3つの視点を見ていきましょう。

『文明の道』シリーズの特徴

『文明の道』は、当時の歴史的な場面を再現CGで再現し、研究者のインタビュー、発掘された遺跡や遺物などの映像で構成されたドキュメンタリーです。


このコンテンツでは、ユーラシア大陸、中央アジアでの文明の出会いや衝突、融合に関する出来事を事例に取り上げています。

これらの事例から、異文化の交流について考えを深めることができます。

『文明の道』シリーズは、次のような構成になっています。

  • 第1集 アレクサンドロス大王 ペルシャ帝国への挑戦
  • 第2集 アレクサンドロスの遺産 最果てのギリシャ都市
  • 第3集 ガンダーラ・仏教飛翔の地
  • 第4集 地中海帝国ローマ・東方への夢
  • 第5集 シルクロードの謎 隊商の民ソグド
  • 第6集 バグダッド 大いなる知恵の都
  • 第7集 エルサレム 和平・若き皇帝の決断
  • 第8集 クビライの夢 ユーラシア帝国の完成

『文明の道』を読み解く3つの視点

ここでは、『文明の道』を読み解くヒントとして、

  • 仕組み(システム)
  • 心のつながり
  • モノ

という3つの視点を示していきます。

仕組み(システム)から読み解く

アレクサンドロス大王、イスラム帝国(アッバース朝)、モンゴル帝国の統治から、多民族国家の経営について学ぶことができます

アレクサンドロス大王

アレクサンドロスは、世界帝国建設の過程で武力に頼る支配では無理だと悟ります。

征服先では現地人を登用し、独自の宗教や言語や文化を尊重する統治方法に転換します。

これは、ライバルのペルシャ帝国から学んだ統治方法です。

アレクサンドロスは、相手の長所を自らの領域支配に取り入れる柔軟性を持っていました。

イスラム帝国(アッバース朝)

イスラム帝国(アッバース朝) では、イスラムの教えと商業を奨励し、巧みな行政システムを構築しています。

商売で得た利益を自発的に寄進させて、その財源で社会インフラととセーフティネットを作り上げています。

モンゴル帝国(元)

モンゴル帝国(元)のフビライは、画期的な交易システムを導入します。

国家が、商人に船と資本を貸し与えて、交易を促進させます。

また、宗教に寛容で、チベット仏教、キリスト教、イスラム教が共存していました。

人のつながりから読み解く

ここでは、支配者側のトップダウン型と民衆側のボトムアップ型で考えてみます。

トップダウン型

カリスマ支配者は、武力では一時的に相手を屈服させても、広大な領域を継続的に支配できません。

そこで、異なる社会や民族の価値観や習慣に理解を示すようになります。
相手の良いところも取り入れて、情報共有や、富の再分配などがうまくいきます。

ボトムアップ型

ローマ商人は、富を求めて、ローマからインドへ、インドを拠点にベトナムと中国とも交易を広げていきます。

宗教家は、仏教を布教させるために、権力者の支援を受けることで、仏教が世界宗教へと発展するきっかけをつかみます。

人のつながりから、東西の文明が融合していく様子がわかります。

シルクロード交易で活躍したソクド商人も描かれています。

ソクド商人は、大国の狭間で700年間生き抜きました。

弱者である彼らは、独自のネットワークを築き、仲間で助け合いました。

それと同時に、「アウエー」で商売をさせてもらうという姿勢が、他の文化を尊重につながります。

宗教対立を乗り越えようとしたフリードリッヒ2世

フリードリッヒ2世は、現在のイタリアにあったシチリア王国出身の神聖ローマ皇帝です。

フリードリッヒ2世は、粘り強い対話と交渉でエルサレムへの無血入城に成功し、イスラムとカトリックの共存を果たします。

シチリアは古代からギリシャ、ローマ、イスラムと支配者が変わったので、多様な文化の影響を受けています。

フリードリッヒ2世のイスラム世界への共感と理解は、生まれ育った環境にありそうです。

モノから読み解く

ここのキーワードは、ローマ貨幣と紙、磁器です。

ローマ貨幣

インドやベトナムからは、当時のローマ貨幣が発見されています。

ローマとアジアの交易に、ローマ貨幣が使われていたことがわかります。

香辛料や宝石などへの飽くなき欲望は、ローマ貨幣を流出させ、ローマ帝国の東西分裂の原因になります。

ローマ貨幣は、地中海世界と東方世界をつなぐ役割を果たしたことがわかります。

紙(製紙法)

製紙法は、8世紀の半ばに、唐とアッバース朝の戦いでイスラム世界にもたらせます。

紙は、アッバース朝の行政システムを進化させ、「知恵の館」とよばれた図書館での古代ギリシャなどの知識や技術の翻訳や共有に役立ちます。

ヨーロッパに逆輸入された知識は、ルネサンスへとつながります。

製紙法が中国からイスラム世界に伝わったことにより、ヨーロッパ世界に大変革をもたらします。

磁器

中国の元の時代に開発された磁器で、青花(せいか)とよばれる白地に青い紋様の器があります。

実は、青花(せいか)は東西文明融合のシンボルでもあります。

コバルト顔料は、現在のイランから伝わったものです。

美しい青花(せいか)は、中国の磁器の生産技術とコバルト原料の組み合わせによるものです。

青花(せいか)の破片は、カイロの遺跡からも出土しています。

イスラム商人が中国とアフリカを交易によってつなげたことを物語る資料になっています。

さらに考えを深める手がかり

これらの事例から、多民族国家の統治や異民族との交流には違いを認める寛容さが有効だったことがわかります。

しかし、そもそも「異文化共存」が本当に成立していたのでしょうか?

豊かさのための動機づけ

社会や経済が上向きな時は、富を再分配する余裕があります。
みんなが豊かになるときには、違いが小さな問題になります。

安定した社会や富を増やすためのプラスの動機づけになります。

ただし、その統治システムは、リーダのカリスマ性による求心力で成立したという要素は否定できません。

危機には弱い

独断的な見方は、分断と対立を引き起こします。

凡庸なリーダは、それぞれの利害や価値観の対立を解決することができません。

また、困難で社会不安が増大する場面では、全体最適のルールは、個人や同族社会が生き残るための妨げとなります。

そして、利害の違いは対立を激化させ、生き残りを賭けた戦いを引き起こします。

価値観・ルールの強要と妥協

まず、異文化との交流が難しいのは、双方が納得して妥協するまでの難易度が高いからです。

また、たとえ「ゆるいつながり」といえども、強者が作った「ルール」で試合をさせられている状況には変わりありません。

例えば、「共通の利益」が「違い」よりも重要と納得できれば、統治のルールに従うし、商談も成立します。

しかし紛争や対立の原因は、民族や宗教、文化の違いだけではありません。

例えば、フリードリッヒ2世は、同じカトリック世界で生きていたはずのローマ教皇から破門されています。

ローマ教皇庁は、十字軍派兵を異教徒弾圧だったとして謝罪しています。
フリードリッヒ2世は、未だに名誉回復されていません。

価値観の違いを認め、相手を受け入れるというのは、異文化交流だけなく、共通の課題です。

「多様性」や「平等」は「きれいごと」なのか?

「多様性」はあくまでも「勝ち組」のルールに従っていることが前提にあります。
そして、不平等は現在も解決されていません。
例えば、このような事例があります。

1つめは、会社組織です。
近年、「多様性」を主張する企業は多くあります。
しかし、白人男性が昇進や役員就任に有利なケースが見られます。

2つめは、政府の経済政策です。
「トリクルダウン理論」は、一般庶民が大企業や富裕層が生み出す富の「おこぼれ」をもらうという考え方です。
しかし、実際には貧富の格差が拡大しています。

「多様性や平等は実現不可能なのではないか?」という問いについて、考えを深めるおすすめの本があります。

『暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病』

『暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病』は、戦争や革命など、体制の大変革を伴う事件によってのみ、不平等が是正される力が働くことを主張している読み応えのある本です。

かなり分厚い本ですが、事例が豊富なので新たな発見があるはずです。

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また『サピエンス全史』も、人類の発展における重要な大変革について、考えを深めるのに役立つ本です。

『サピエンス全史』

現在の課題を動画で学べる『映像の世紀』

『文明の道』を視聴して、さらに学びを深めたい方には『映像の世紀』もオススメです。
『映像の世紀』は、20世紀を記録映像と当時の回想録で語る傑作ドキュメンタリーです。

多民族国家の経営や異文化の共存に関する課題について、より具体的に考えされられます。

『映像の世紀』のレビュー記事も書いておりますのでご覧ください。

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おわりに

このように、NHKスペシャル『文明の道』のコンテンツでは、異文化交流の視点による、古代ギリシャやローマ、イスラム帝国(アッバース朝)、モンゴル帝国(元)の浮き沈みを、楽しみながら学ぶことができます。

この記事では、『文明の道』を読み解く3つの視点として、

  • 仕組み(システム)
  • 人のつながり
  • モノ

をご紹介しました。

そして、これらの国々の統治がうまくいった背景には、異なる民族や宗教、言語を持つ人々との違いを尊重したことにあったことがわかります。

『文明の道』を視聴する方法

以前はDVDが販売されていましたが、現在は販売されていないようです。

その代わり、動画配信サービスで『文明の道』を視聴することができます。(2020年4月現在)

ただし、第8集の「クビライの夢 ユーラシア帝国の完成」は未配信です。
第1集から7集までのコンテンツを視聴することができます。

配信元はこちらです。

この記事が皆さまの参考になれば幸いです。

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なお本記事でご紹介している情報は、執筆時点のものです。
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