「日本三大浮世絵コレクション展」は、約450点もの江戸時代の浮世絵の名品が鑑賞できる展覧会です。
葛飾北斎「冨嶽三十六景」、歌川広重「東海道五拾三次」をはじめ、鈴木春信や鳥居清長、喜多川歌麿などの美人画や、初期浮世絵、摺物(すりもの)とよばれる貴重な作品なども出品されています。
「日本三大浮世絵コレクション展」が開催される東京都美術館では、日時指定入場を行っています。
日時指定入場により、展示室内にいる人数がいつもより少ないです。
このため、貴重で素晴らしい浮世絵を心ゆくまで鑑賞できます。
この記事では、「日本三大浮世絵コレクション展」を鑑賞した愛好家として、主観的な感想や楽しみ方などについて書いていきます。
さらに、「日本三大浮世絵コレクション展」の予習・復習に役立つ本もご紹介していきます。
はじめに
多くの良好なコンディションの浮世絵の名品が、海外へ流出しているといわれております。
しかし、国内にも世界レベルの浮世絵コレクションを保有する、太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団があります。
「日本三大浮世絵コレクション展」は、この3館の所蔵品が一か所に集まった初めての展覧会です。
この展覧会では、(前後期を合計すると)約 450 点もの作品が出品されます。
私たちがよく知っている作品から、初めて見る作品までバラエティに富んでいます。
このため、見ごたえのある作品を、さまざまな角度から一度に楽しむことができます。
おすすめする3つの理由
「日本三大浮世絵コレクション展」をおすすめする理由は次の通りです。
- 世界レベルの浮世絵コレクションを一度に楽しめる。
- 江戸時代の浮世絵の流行、技法、作風などの変化を知ることができる。
- 実物ならではの職人技のスゴさが体感できる。
このように、オリンピック開催に合わせて企画された「日本三大浮世絵コレクション展」は、浮世絵の鑑賞が初めての方から、ファンの方まで楽しめる豪華な内容となっております。
同じ作品を印刷(摺り)の違いで楽しむ
葛飾北斎「冨嶽三十六景」、歌川広重「東海道五拾三次」は有名な作品です。
「日本三大浮世絵コレクション展」では同じ作品を印刷(摺り)の違いを比較して鑑賞できます。
例えば、
「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
「冨嶽三十六景 凱風快晴」
「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」
「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」
といった有名な作品で、摺り方による表現の違いを楽しめます。
職人技のスゴさを体感する
印刷物ではわからない実物ならではの楽しみがあります。
例えば、彫りや摺りの表現や繊細なグラデーション表現があります。
多彩な版画の表現
当時の日本の木版印刷の技術は、世界最高水準にありました。
あまりの繊細さと美しさに、木版画であることを、つい忘れてしまいがちです。
しかし、浮世絵の制作には、木版を制作する彫師(ほりし)や、印刷をする摺師(すりし)の存在も必要不可欠です。
職人の技を楽しむという観点からも、浮世絵鑑賞が楽しめます。
空摺(からずり)
例えば、空摺(からずり)という、紙の素材を活かした摺りの表現があります。
空摺は、色をつけずに紙に凹凸の模様を表現する技法です。
典型的な作例として、鈴木春信の作品がよく登場します。
鈴木春信のエレガントで幻想的な表現は、このような高度な技術も一役買っています。
ぼかし
浮世絵の繊細なグラデーション表現は、「ぼかし」とよばれる摺りの技術が支えています。
典型的な作例として、歌川広重の作品がよく登場します。
その他にも、美人画の髪の毛、着物の柄などに施された彫刻の精密さにも驚きます。
浮世絵の制作は、絵師だけではなく、彫師(ほりし)、摺師(すりし)のチームワークであることがわかります。
「摺物」(すりもの)の高度な表現力
そして、「日本三大浮世絵コレクション展」では「摺物」(すりもの)と呼ばれる作品も出品されています。
摺物は贈答用として制作され、非売品でした。
金や銀を使用した豪華さが印象的です。
高度な絵画の描写や、彫りや摺りの技術は必見です。
摺物の名品を鑑賞できるめったにない機会です。
このような彫りや摺りなどの職人技を楽しむには、単眼鏡がおすすめです。
細部の美しさや表現力を、さらに感じることができます。
また、喜多川歌麿や東洲斎写楽の作品でおなじみの、雲母摺(きらずり)とよばれる背景の「キラキラ感」も楽しめます。
ちなみに私は、こちらの単眼鏡を使っています。
江戸時代の浮世絵表現を振り返る
浮世絵の歴史を振り返ると、私達が通常イメージする「錦絵」とよばれる多色刷りの絵画表現が出現する前の「初期浮世絵」とよばれる時期が意外と長いことに驚かされます。
また、美人画と役者絵は江戸時代を通じて題材になっており、まさに浮世絵の定番だったことがわかります。
それに対して風景画は、出現時期がかなり後で、江戸時代の浮世絵の歴史としては意外と短かったことに驚きました。
葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」のインパクトがあまりにも大きいのがその理由かもしれません。
イラストのような表現
「初期浮世絵」とよばれる浮世絵が、最初は本の挿絵の脇役から、独立した「商品」をとなるまでの変遷を知ることができます。
「初期浮世絵」はイラストに通じるような表現が印象的です。
例えば、パターン化された身体や着物の輪郭、着物や帯の柄の表現などにその要素を感じます。
白黒の挿絵が、少しずつカラフルになり、西洋絵画の影響を受けた遠近法のような表現が出現し、少しずつ洗練していく様子が伺えます。
題材の謎解き
それが、富裕層の間で流行した絵暦(えごよみ。絵入りカレンダー)の交換を通じて、芸術作品として飛躍的な進歩を遂げたのがわかります。
「錦絵」とよばれる多色刷りの絵画表現は大変革です。
浮世絵の発展において、多色刷りの技術の確立は重要です。
絵画の主題も、古典などの教養からテーマを「深読み」をする内容から、直接的でわかりやすい内容へ変化する様子も興味深いです。
謎解きが「古典などの教養」から「法の網をくぐり抜ける」ための表現も興味深かったです。
教養が求められる作例としては、鈴木春信の「座鋪八景」シリーズなどです。
こちらは「見立て」と呼ばれる、中国や日本の故事などをパロディ化した絵画表現です。
江戸の高い文化レベルを示しています。
ちなみに、わたくしは「タネ明かし」をされるまで、作品の意図がわかりませんでした….
「法の網をくぐり抜ける」表現に、喜多川歌麿の「五人美人愛敬競」のシリーズなどがあります。
この時期は、モデルの名前を明記できなくなります。
このため、題材のタイトルを「絵文字」のようなもので表現しています。
江戸っ子の「反骨精神」を感じる作品の一部です。
庶民の娯楽
浮世絵研究の第一人者で知られる、コバチュウ先生こと小林忠氏は、浮世絵についてこのように述べています。
庶民のために誕生し、庶民の欲求が育てた浮世絵は、世界的にも大変めずらしい「商業的な美術工芸品」です。
出典:小林忠『教えてコバチュウ先生!浮世絵超入門』(小学館、2020年) 34ページ
今回の出品作品では、美人画と役者絵の占める割合が高いです。
たくさんの役者絵から、歌舞伎が江戸庶民のエンターテイメントだったことがわかります。
東洲斎写楽の「デフォルメ力」は、現在の私達が見てもインパクトがあります。
そして、雲母摺(きらずり)と呼ばれる「キラキラ」した背景も印象的です。
その一方で、描かれる立場や憧れの役者を浮世絵を通じて鑑賞する立場から考えてみると、(実物より)美しく、カッコよく描いてほしかったのではないでしょうか?
美しい部分に目を向けている鳥居派や歌川派、喜多川歌麿の作品を鑑賞すると、より「ホッとする気持ち」になるのはそのせいかもしれません。
おわりに
「日本三大浮世絵コレクション展」は、浮世絵誕生から幕末までの約 300 年間にわたる名品を楽しむことができる素晴らしい展覧会でした。
葛飾北斎「冨嶽三十六景」、歌川広重「東海道五拾三次」をはじめ、太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団が所蔵する、さまざまな画題や技法の名品が勢揃いしています。
耳寄りな情報
こちらは「日本三大浮世絵コレクション展」を楽しむための、耳寄りな情報です。
展覧会図録はオンラインで購入できます
実は「日本三大浮世絵コレクション展」の展覧会公式図録は、オンラインでも購入できます。
楽天ブックスで販売しています。
「The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション」展覧会図録
2020 年東京オリンピックに合わせて企画された展覧会の図録なので、渾身の力作です。
しかし、大きくて重いです。
重くて大きな図録を帰りに持ち運ぶのは大変です。
送料も無料ですので、むしろオンラインでの購入がおすすめです。
プラスチック製の図録入れ代金30円も節約できます。
そして、展覧会に行けない方にもおすすめします。
展覧会の公式図録で、圧巻の浮世絵コレクションをご自宅で楽しむことができます。
なお、浮世絵鑑賞の入り口として、おすすめな本の記事も書いています。
こちらもぜひご覧ください。
公共交通機関が心配な方へ
開催する美術館は、日時指定制入場を導入して、来館者の安全確保に配慮しています。
しかし、公共交通機関での移動が心配な方もいらっしゃるかもしれません。
そのような方は、車で来館するという方法もあります。
例えば、こちらのサービスで周辺駐車場の事前予約ができます。
外出先近くの空いている駐車場やコインパーキングを検索・予約!特P(とくぴー)
駐車場が確保できれば、時間の計算もできるので安心です。
日時指定入場チケット購入で素晴らしい鑑賞体験を
以前の記事でご紹介した「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」と同様に、ネットでチケットを購入する手間を乗り越えると、素晴らしい鑑賞体験が待っています。
「日本三大浮世絵コレクション展」は、東京オリンピックの開催期間に合わせて企画された展覧会です。有名な作品から初公開のレアな作品まで勢揃いしており、主催者の強い意気込みを感じます。
浮世絵を初めて鑑賞する方からファンの方まで、いろんな楽しみ方ができる展覧会です。
この記事が、皆様の参考になれば幸いです。