この記事では、「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展の感想や楽しみ方についてご紹介していきます。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展は、ミネアポリス美術館が所蔵する貴重な日本美術コレクションを観賞できる展覧会です。
江戸時代の絵画を中心に、戦国時代から幕末、近代に至る日本絵画の名品が、約90点出品されています。
展示は次のような8部構成です。
- 水墨画
- 狩野派
- やまと絵
- 琳派
- 奇想派
- 浮世絵
- 文人画(南画)
- 近代絵画
このように主なジャンルを押さえていますので、日本絵画の変遷を楽しみながら学ぶこともできます。
またこの展覧会は、東京、福島、滋賀、山口の4箇所を巡回します。
- 東京会場(サントリー美術館):2021年6月27日まで
- 福島会場(福島県立美術館):2021年7月8日-9月5日
- 滋賀会場(MIHO MUSEUM):2021年9月18日-12月12日
- 山口会場(山口県立美術館):2022年3月1日-4月12日
なおこの記事は、東京会場(サントリー美術館)の展示をもとに執筆しておりますが、他の会場で作品をご覧になる方にも参考になると思います。
雪村。戦国の世が生んだ「奇想」の画僧
最初は、16世紀の水墨画です。ここでご紹介するのは、雪村周継(せっそんしゅうけい)の作品《花鳥図屏風》です。
雪村周継は、戦国の世が生んだ「奇想」の画僧です。
《花鳥図屏風》右隻には春の夜、左隻には夏の朝の様子が描かれています。
まず印象に残ったのは、右隻の月明かりと水面、梅の木の空気感です。
その静寂を破るように登場する2匹の鯉がユーモラスです。
左隻に視線を移すと、のびのびと空を飛ぶツバメたちが印象に残ります。
雪村の《花鳥図屏風》は遊び心を感じつつ、力強さを感じる作品です。
江戸狩野 vs. 京狩野
2つめは、狩野派です。初めに目に飛び込んでくるのは、狩野探幽《瀟湘八景図屛風》です。
瀟湘八景(しょうしょうはっけい)は、山水画の定番画題です。
探幽らしい余白を活かした空気感は、安心感を感じさせます。
しかしこの日は、最初に観た雪村の《花鳥図屏風》の印象が強かったです。
このため、非主流派の「京狩野」の狩野山楽と山雪による個性的で尖った次の作品が気になりました。
- 狩野山雪《群仙図襖》(旧・天祥院客殿襖絵)
- 伝 狩野山楽《四季耕作図襖》(旧・大覚寺正寝殿襖絵)
今回は、狩野山楽が制作したと伝わる《四季耕作図襖》をご紹介します。
「四季耕作図」は、稲作を通じて四季を感じることができる画題です。
そのうち、早春の田植え前の準備と、秋の収穫の場面を鑑賞できます。
心温まる風景と鋭い筆づかいのギャップが印象的です。
もともとは、大覚寺正寝殿竹の間を飾っていた作品です。
やまと絵と琳派
狩野派の後は、やまと絵と琳派に続きます。3つめは、やまと絵です。
「京狩野」の後にやまと絵を鑑賞すると、作品の柔らかさや優しさを一層感じます。
例えば、《西行物語図屛風》は淡い上品な発色が印象的です。
《西行物語図屛風》は『西行物語』を題材にした作品です。
西行が和歌を書きつける場面もあります。
4つめは琳派です。
濃厚な色彩の絵画も良いですが、気になったのは鈴木其一《三夕図》です。
濃厚な色彩の絵画も良いですが、薄味なところが印象に残りました。
この作品は、「秋の夕暮れ」と詠んだ3首の和歌を絵画化したものです。
最小限の筆致とたっぷり取った余白からは、哀愁を感じます。
俳句でなく和歌を絵画化したところも興味深かったです。
奇想の絵師、若冲と蕭白
次は、18世紀京都画壇で活躍した奇想の絵師です。階段から目に入ったのは、伊藤若冲《鶏図押絵貼屛風》です。
《鶏図押絵貼屛風》は、若冲得意の画題である鶏を、水墨画にで表現した作品です。
そして、この日一番気になった作品の、
曾我蕭白《群鶴図屛風》
に出会いました。
まず印象に残ったのは、右隻で描かれている、2羽のひな鳥の鶴と、それを迎える母の鶴です。
母の慈愛を感じるこのシーンからは、意外性を感じます。
そして、左隻は対象的に、荒波の上を飛んでいる2羽の鶴と、岩にたたずむクールな鶴が描かれています。
静と動、白と黒のコントラストが効いた作品です。
浮世絵と文人画
その次は、浮世絵と文人画です。コンディションの良い浮世絵は必見
(多分コンディションが良いのか)発色の素晴らしさが特に印象的です。
例えば、
- 鈴木春信《見立渡辺綱と茨木童子》
- 鳥居清長《三囲神社の夕立》
のような作品が印象的でした。
見慣れた作品も多く出品されており、スルーしそうですが、状態の良い作品を楽しめるチャンスです。
軽いタッチの南画で緩みを感じる
その次は、文人画(南画)です。
シャープな作品が頭に残っていたので、良い意味で緩い筆づかいが気持ちを和ませます。
その緩みが、「心の余裕」も生み出すのかもしれません。
今回印象に残ったのは、
- 谷文晁《松島図》
- 浦上春琴《春秋山水図屛風》
です。
谷文晁《松島図》は、瑞巌寺から松島を描いた作品です。
まるでドローンで撮影したかのような画面です。
青緑山水(せいりょくさんすい)と呼ばれるスタイルで、着色された緑色が印象的です。
浦上春琴《春秋山水図屛風》は大画面の屏風です。
全体に淡い色調で、アクセント的な着色がされています。
淡い色調と柔らかい筆づかいは、険しい山々に柔らかい印象を与えます。不思議な感覚です。
右隻には春の夜、左隻には夏の朝の様子が描かれています。
真ん中(右隻の左側、左隻の右側)が湖が描かれています。
視線を右(春の風景)から左(秋の風景)に移すときに、湖が「クッション」のような役割を果たして、時間が緩やかに流れているように感じました。
狩野芳崖。「日本画」誕生の立役者
最後は幕末から近代の日本絵画です。ここでは、最後の章で最も気になった作品である
狩野芳崖《巨鷲図》
をご紹介します。
《巨鷲図》を観た第一印象は、料理に例えると「和洋中」です。
樹木や崖は、伝統的な水墨画の表現、あるいは狩野派を継承したような表現に感じます。
その一方で、鷹の陰影の表現や、遠近感は西洋風です。
全体的なシャープさがカッコいいです。
明治期には、水墨画にも新しいスタイルが取り込まれて、さらに進化していく様子がわかる作品の1つです。
おわりに
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展では、たくさんの素晴らしい作品を鑑賞することができました。
この日は、水墨画の表現の変遷が興味深かったです。
そのため、次の3点が特に印象に残りました。
- 雪村周継《花鳥図屏風》
- 曾我蕭白《群鶴図屛風》
- 狩野芳崖《巨鷲図》
またこの展覧会は、ミネアポリス美術館所蔵の日本絵画の名品を通じて、16世紀から20世紀初めにかけての日本絵画の変遷を楽しみながら学ぶこともできます。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展は、4会場を2022年の春まで巡回します。
貴重な作品を鑑賞できるおすすめの展覧会です。
この記事が、皆様の参考になれば幸いです。
巡回展の情報
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展は、東京を皮切りに全国4箇所で開催されます。
今後の開催予定は次の通りです。
- 福島県立美術館(2021年7月8日-9月5日)
- MIHO MUSEUM(2021年9月18日-12月12日)
- 山口県立美術館(2022年3月1日-4月12日)
雪村ゆかりの佐竹氏
ちなみに雪村は、戦国大名の佐竹氏の一族で、後に禅僧になりました。
佐竹氏は、伊達政宗をあと一歩まで追い詰めたこともある北関東を勢力圏とした戦国大名です。
北関東にいち早く禅宗文化や水墨画が伝わった要因の1つに、佐竹氏の影響力があります。