法隆寺金堂壁画とシルクロード壁画の関係を楽しく学ぶ
今回は、NHK BSプレミアムで放映されたドキュメンタリー番組『シルクロード・壁画の道をゆく~奈良・敦煌・クチャ・ホータン~』をご紹介していきます。
法隆寺金堂壁画とシルクロード壁画の関係について、楽しく学べるものを探している過程で、この動画コンテンツを見つけて視聴しました。
法隆寺金堂壁画はシルクロード壁画からの影響を受けております。
シルクロード壁画について知っておくことは、法隆寺金堂壁画についての学びをさらに深めたいと思っている方にオススメの記事です。
シルクロード各地の遺跡から日本の美の原点を探す
この番組では、法隆寺金堂壁画の源流を求めて、女優の有森也実さんがシルクロード各地を巡ります。
法隆寺金堂壁画の構図、模様、描線がどのように伝わったのか、シルクロード各地の遺跡から日本の美の原点を探す旅です。
また脇を固めるキーパーソンとして小島康誉氏が登場します。
小島康誉氏は、私財を投じてシルクロードの文化財保護における調査・研究、保護などに長年貢献し、新疆ウイグル自治区を中心に大きな尊敬を集め、高い評価を得ている方です。
この記事では、このドキュメンタリー番組からの学びと感想をお伝えしていきます。
法隆寺金堂壁画とシルクロード各地の遺跡とのつながり
「構図」の原点は敦煌莫高窟にあり
まず世界遺産にも登録されている莫高窟から手がかりを探していきます。
敦煌莫高窟332窟には、法隆寺金堂壁画六号壁とよく似た壁画がありました。
法隆寺金堂壁画の構図の源流は、敦煌の莫高窟にあるようです。
現地の敦煌研究員は、唐の時代において、仏教が国家宗教だったこと、浄土思想が流行していたことを背景として挙げています。
浄土思想は長安で誕生し、それが西は敦煌、東は奈良に伝わったようです。
研究員の説明は、「なぜ日本にこの構図が入ってきたか?」という手がかりになります。
「模様」の原点はキジル千仏洞にあり
「描線」や「模様」の手がかりはあるのでしょうか?
敦煌莫高窟220窟壁画と法隆寺金堂壁画の線の描き方がよく似ています。
繊細で色が鮮やかな壁画の中には、極楽浄土の世界が広がっています。
法隆寺金堂再現壁画の制作に関わった平山郁夫画伯は、敦煌莫高窟220窟の壁画に法隆寺金堂壁画の源流を感じていたそうです。
275窟にはインドガンダーラの影響を受けた菩薩像があります。
菩薩の背もたれの模様が手がかりになりそうです。
法隆寺金堂壁画十二号壁と莫高窟220窟と275窟の模様はよく似ています。
現地の敦煌研究員によると、「描線」や「模様」は、かつて亀茲(きじ)国があった更に西のクチャから伝わったものだそうです。
法隆寺金堂壁画の手がかりは、非公開の207窟にありました。
赤を基調とした壁画はほとんど残っていないのですが、外国の探検隊のスケッチと、発掘された考古資料から、敦煌莫高窟 220窟と法隆寺金堂壁画十二号壁との共通点が見いだせます。
このことから、法隆寺金堂壁画十二号壁の「模様」は、クチャ → 敦煌 → 奈良のように伝わったと推定されております。
「鉄線描」の原点はホータンにあり
最後に残った「描線」の手がかりを求めて、シムシム石窟に行きます。
シムシム石窟40窟の壁画には、法隆寺金堂壁画の「鉄線描」(同じ太さで強く引き締まった線。東洋画の技法の1つ)の源流でもある、「屈鉄線」で描かれています。
しかし現地の亀茲院研究員は、「屈鉄線」の源流はさらに西域のホータン王国にあるといいます。
新疆ウイグル自治区の文物考古研究所には、かつてのホータン王国の領域から 2002年に発掘された壁画が保管されています。
その中の「西域のモナリザ」とよばれる壁画は、「屈鉄線」で描かれています。
この壁画が、法隆寺金堂壁画六号壁に描かれている「鉄線描」の原点のようです。
「クローン文化財」〜 文化財保護・公開の救世主
この動画コンテンツには、もう1つの見どころがあります。
東京芸術大学による「クローン文化財」(客観的データに基づく 3D プリンターなどのデジタル技術と感覚を大事にした手技を融合して制作される超高精度な文化財)の活動です。
1949(昭和24)年に焼損した法隆寺金堂壁画も「クローン文化財」の技術によって次のような手順で制作されています。
- 残されたデータを手がかりに色のデジタルデータを作る。
- デジタルデータを使って高精細画像を作る。
- 壁画の質感を伴った和紙へ印刷する
- 画家の手作業で色を補い、破損部分も再現する。
ちなみに東京藝術大学は、クローン文化財の技術を使って、敦煌莫高窟57窟やキジル石窟212窟なども制作しています。
中国まで実物を観に行くのは大変ですが、国内にあるクローン文化財の作品なら鑑賞できるチャンスがありそうですね。
法隆寺金堂壁画の構図、模様、鉄線描のルーツがわかる
この動画コンテンツを観ることによって、法隆寺金堂壁画の構図、模様、鉄線描のルーツが、それぞれ敦煌、キジル、ホータンの壁画から見いだせることを知ることができます。
さらに印象に残ったことは、日本から気軽にアクセスしにくい敦煌莫高窟やキジル千仏洞などの繊細で美しい壁画です。
クチャのキジル千仏洞38窟の壁画の、鮮やかな青いラピスラズリで表現された世界観は圧巻でした。
いつかシルクロードを巡る旅をしてみたいと思わせる素晴らしい映像です。
また法隆寺金堂壁画の再現に関わった平山郁夫画伯は、日本文化の源流を求めてシルクロードを旅したと言われております。
平山郁夫画伯が敦煌莫高窟を訪問した時に発した「感動の言葉」も紹介されており、平山郁夫画伯の作品も鑑賞してみたいと思いました。
この動画コンテンツは、法隆寺金堂壁画とシルクロードの仏教美術の関わりについて、わかりやすくまとまっています。
さらに西域壁画の繊細で美しい映像も感動的です。
シルクロードの仏教美術に興味のある方にも、オススメできる一本です。
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この記事が、皆様の参考になれば幸いです。